国立循環器病研究センター
高血圧・腎臓部長
河野 雄平
高血圧治療で循環器病も防げる
もくじ
はじめに
高血圧はありふれた病気です。しかし、脳出血や脳梗塞などの脳卒中、心筋梗塞や心不全、不整脈などの心臓病、腎不全などの腎臓病、大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症といった血管の病気など、種々の循環器病の重大な危険因子ですから侮れません。
高血圧の治療は、それらの病気を予防して健康寿命を延ばすことが目的となり、効果もはっきりしています。しかし、治療が容易になったのに、治療を受けていない人や血圧がコントロールされていない人が少なくありません。このページでは、高血圧とその治療の最新情報をもとに、ぜひ知っておいてほしいポイントを解説します。
高血圧もいろいろある
血圧とは血管内の圧力のことで、通常は動脈圧を意味します。血圧は心臓が収縮するときに最も高くなり、これが「収縮期血圧」(上の血圧)と呼ばれるものです。また、心臓が拡張するときには最低となり、これが「拡張期血圧」(下の血圧)です。血圧の単位はmmHgで、標準的な血圧計での測定に使う水銀柱の高さを示しています。血圧は心臓や血管、腎臓、神経系や内分泌系などの多くの因子の影響を受けるほか、精神や体の活動などによって常に変動しています。
高血圧とは、その名のように血圧が高い状態です。最近の日本高血圧学会のガイドライン(JSH 2004)による血圧分類を<表1>に示しました。正常値は、収縮期血圧が140mmHg未満、拡張期血圧は90mmHg未満で、どちらかがこれ以上であれば高血圧に入ります。高血圧は、血圧のレベルにより軽症、中等症、重症とさらに細分化されています。
140/90mmHg以上であれば高血圧
正常範囲であっても、高めであればより低い場合に比べると循環器病の危険性が増すので、上の血圧が130~139mmHg、または下の血圧が85~89mmHgの場合は「正常高値血圧」と呼ばれています。循環器病に最もなりにくい「至適血圧」は、120/80mmHg未満です。
高血圧は最も多い病気の一つです。日本では、成人の約30%が高血圧で、患者さんの数は約3,500万人にのぼると考えられています。血圧は年齢とともに上昇し、高齢者の約3分の2は高血圧です。
また、男性は一般に女性より血圧が高く、これは若年や中年期では明らかです。しかし、高齢になると血圧の性差はほとんどなくなります。
年齢による血圧の変化は、収縮期血圧と拡張期血圧では異なります。収縮期血圧は加齢とともに上昇を続けますが、拡張期血圧は50~60歳くらいで最高となり、以後はむしろ低下してきます。ですから、高齢者では収縮期血圧と拡張期血圧の差が大きくなり、収縮期血圧は高く、拡張期血圧は正常な「収縮期高血圧」を示す人が多くなります。これはあまりよいことではなく、大きな血管の動脈硬化が進んだことを反映しています。
表1 成人における血圧値の分類
高血圧の診断…繰り返し測定を
高血圧の診断は一度だけの血圧測定によるものではなく、繰り返しの測定によるべきです。受診や測定の回数とともに、慣れによって血圧が下がってくる場合が少なくないからです。
自由行動下に24時間測る「24時間血圧」や、家庭での「家庭血圧」<写真>は正常な場合が多いのに、検診や診察室では高血圧になる人がいます。このような状態は「白衣高血圧」あるいは「診察室高血圧」といわれています。逆に、検診や診察室では正常血圧なのに、24時間血圧や家庭血圧は高い場合もあり、「仮面高血圧」「逆白衣高血圧」と呼ばれています。
仮面高血圧は要注意
白衣高血圧は、本当の高血圧(持続性高血圧)に比べれば良性ですが、無害というわけではありません。仮面高血圧は、心臓などの臓器障害や循環器病が起こりやすいという報告が多く、注意すべき病態と考えられます。私たちの研究でも、治療中の高血圧の患者さんで仮面高血圧の場合は、そうでない人より心臓肥大や動脈硬化が進んでいました<図1>。
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