2012年5月13日日曜日

Fibronews2004


今回のニュースは4月に開催されたシンポジウムの内容です。

4月17日土曜日、岡山市にある岡山コンベンションセンターで日本リウマチ学会では初となる線維筋痛症シンポジウムが開かれました。座長は聖マリアンナ医大の西岡教授と私(浦野)です。シンポジウムは午前8時30分から11時まで2時間半にわたって開かれました。タイトルは「各科領域から見た線維筋痛症の疾患概念と病態」です。


摂食障害を引き起こす社会的な圧力

第一席は「疫学調査成績からみた本邦における線維筋痛症の実態と問題点」と題して山梨県立看護大学短期大学部の松本美富士先生が発表されました。昨年から日本リウマチ財団と厚労省とで疫学調査が行われています。松本先生は今までご自分のやってきた調査を踏まえて、次のように述べられています。わが国でもようやく問題とされるようになったが、わが国での疫学的な問題は未だに不明である。臨床医の線維筋痛症に対する認知度が極めて低く、確定診断に至るまで、非常に長い期間を要する。受診医療機関数、患者のQOLの実態、行政、社会支援システムの不備による放置例の問題など、日本に特有の問題が発生していることが明らかになってきた 。いままで、外国の頻度などを参考にしてきたが、本邦での調査からアメリカリウマチ学会の分類基準の妥当性、圧痛点の部位の妥当性、重症度、経過、予後などについて検討されなければならないと述べられました。


なぜ太陽の原因くしゃみはしない

第二席は順天堂大学麻酔科の宮崎東洋先生です。演題は「慢性疼痛の機序と線維筋痛症」です。先生は慢性疼痛の中でも心因性疼痛の治療の難しさについて述べられました。今回はペインクリニックの立場から線維筋痛症の治療について検討されています。線維筋痛症は「身体の各所に慢性的な痛みとこわばり、凝りを自覚し、関節周囲組織、筋肉、腱、靭帯の付着部などに圧痛を認めるものの、それを説明しうる他覚的な異常をみとめず、疲労感や抑うつ症状などをともなう病態」と定義されるが、その原因は全く不明であると述べられ、ペインクリニックでも今後問題となるテーマのようです。硬膜外注射、そしてNMDA受容体遮断薬など麻酔科的手法について� �述べられました。


漫画の人のくしゃみ

第三席は日本大学の村上先生です。「心療内科から見た線維筋痛症の疾患概念と病態」と題して講演されました。線維筋痛症の発症の契機として80%以上に明らかな社会心理学的ストレスが認められ、90%以上に肉体的過労や外傷などのエピソードがみられた。心理テストでは87%に軽度以上のうつ、73%に神経症的傾向、87%に自律神経失調症的傾向が認められ、強迫性格・循環気質・神経質・メランコリー・過剰適応・自己犠牲など個人の性格的背景がうかがわれた。線維筋痛症の慢性疼痛の背景には身体的外傷や過重な負荷を受けた体験があり、不安、恐怖、強迫、抑うつ、悲哀、怒りなどの心理的ストレスが加味されて、身体的な疲労、心理的な疲労も加わ り心身の疲労状態から慢性的な疼痛に発展、多くの不定愁訴、自律神経症状を伴ってくることが示唆された。また、うつ病患者に比較して尿中VMA、MHPGが低値であり、うつ病の病態とは差異がありそうだと述べられました。線維筋痛症の病態の解釈と治療には心療内科からみた心身症としてのとらえかたが重要とのことです。


第四席は聖マリアンナ医大神経精神科の伊野美幸先生です。演題は「精神科領域から見た線維筋痛症の病態」です。疼痛性障害と線維筋痛症の差異を述べられました。
精神科の診断分類であるDSM-IVにあてはまる疼痛性障害は慢性例では抑うつ性障害を合併していることが多く、自殺の危険性が高まる。どの年齢にも発症し、男女別には発病に差がない、などは線維筋痛症とは異なる点を述べられました。SSRI、SNRI あるいは三環系抗うつ剤などは疼痛性障害および線維筋痛症にも効果がみられると述べられました。

第五席は順天堂大学精神医学の臼井千恵先生です。題名は「線維筋痛症の発症に関する潜在因子の検討」です。60症例の線維筋痛症の発症前の心身損傷について問診やアン ケート調査などのデータから検討されました。症状発症までの潜在的因子としては脊椎などの外傷や外科的手術などの身体的な侵襲が12症例あり、他の疾患など身体的要因がこれに次いでいます。幼児期のいじめや不登校なども7例にみられ、家庭内暴力、離婚、親族の死亡など様々なストレスが発症要因となっているケースも多かったと述べられました。


第六席は聖マリアンナ医大の中村洋先生です。「線維筋痛症の病態と薬物治療」と題して、以下の講演をされました。線維筋痛症の根本は、広範な痛みであり、痛み刺激の増強、広がりが特徴である。痛み刺激の伝達にはグルタミン酸、サブスタンスPなどの神経伝達物質、NMDA,AMPAなどの受容体が作用しており、痛み刺激抑制にはオピオイド受容体、α2アドレナリン受容体、セロトニン受容体が関与していて、これらの伝達を抑制あるいは刺激することが治療につながると考えられる。これまで試みられた治療では、鎮痛薬、鎮静剤、抗欝薬が線維筋痛症の治療に有効であったとの報告がみられるが、セロトニン前駆物質、サブスタンスP抑制剤、NMDA 受容体拮抗薬、ドパミン受容体作用薬などの痛み刺激伝達をターゲットとした薬剤、下行性抑制経路賦活剤であるノイロトロピンが今後有望な薬剤となると考えられる、と述べられました。

そのほか、午後のワークショップでは演題が発表されました。その内容は次回に報告します。



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